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水泳のタイムを縮める秘密兵器?呼吸筋トレーニングの効果を科学的に検証
タイム短縮の盲点?水泳選手が鍛えるべきは呼吸筋
「ラスト25メートルで苦しくなり、スピードが落ちてしまう」
「ターン後の加速は得意だけど、後半で息が続かない」
水泳選手がよく抱える悩みの一つが 呼吸の苦しさ です。持久力や筋力を鍛えても、呼吸筋が疲れてしまうとパフォーマンス全体が落ちてしまいます。
そこで注目されているのが 呼吸筋トレーニング(Inspiratory Muscle Training, IMT)。水泳という特殊な環境で本当に効果があるのかを調べた研究があり、実際に100m・200mのタイムを短縮した結果が報告されています。
研究の概要|競泳選手を対象とした無作為化比較試験
- 研究チームと発表年 ニュージーランドAUT大学と英国Brunel大学の共同研究, 2010年
- 対象者 クラブレベルの競泳選手16名
- 方法
- 無作為に「呼吸筋トレーニング群」と「シャム(偽)トレーニング群」に分ける
- しきい値デバイスを用い、1日2回、30呼吸を6週間継続
- 介入前後で肺機能、最大吸気圧(MIP)、100m・200m・400m自由形タイムを測定
- 期間 6週間のランダム化比較試験(RCT)
主な結果|100m・200mでタイム短縮
- 100m自由形:平均 1.70%の短縮
- 200m自由形:平均 1.5%の短縮
- 400m自由形:改善は見られず、むしろごくわずかに遅延傾向
- 呼吸筋力(MIP)は有意に上昇
- 主観的な呼吸困難感も軽減
つまり、短〜中距離では呼吸筋トレーニングが有効, しかし400m以上の長距離では効果が限定的であることが示されました。
考察|なぜ短中距離で効果が出やすいのか?
- スタートやターン後の爆発的な酸素需要 息を止める時間が長くなる局面で、強い吸気力が必要になるため、呼吸筋の強化が有利に働く。
- 呼吸筋疲労の軽減 短距離種目ではラストの力勝負が重要。呼吸筋の余裕が全身の動きの余力に直結する。
- 400m以上で効果が小さい理由 長距離では呼吸筋だけでなく心肺持久力全般やエネルギー代謝の影響が大きく、呼吸筋単独の寄与が薄れる可能性。
実生活へのヒント|水泳に呼吸筋トレーニングを取り入れる
- 練習前後にデバイスで30呼吸×2セット
- 週5〜6日, 6週間を目安に継続
- 短距離や中距離種目の選手に特におすすめ
- 呼吸リズム(例:2ストロークごとに呼吸)を意識して練習と組み合わせると効果的
まとめ
呼吸筋トレーニングは、水泳選手の 100m・200mのタイムを有意に短縮することが示されています。特にスプリントや中距離で「後半に失速してしまう」選手にとって、導入価値の高い方法です。
引用文献
Kilding AE, Brown S, McConnell AK. Inspiratory muscle training improves 100 and 200 m swimming performance. Eur J Appl Physiol. 2010;108(3):505-511.