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睡眠と運動が認知の老化に与える影響 ― 10年間の追跡研究から
加齢とともに「物忘れが増えた」「集中力が続かない」と感じる方は少なくありません。認知症のリスクを減らすためには、どのような生活習慣が役立つのでしょうか。
ロンドン大学ユニバーシティカレッジの研究チーム(Bloombergら, Lancet Healthy Longevity, 2023)は、睡眠時間と身体活動が認知機能の老化にどのように影響するかを10年間追跡しました。
研究の背景
- 運動不足と**不適切な睡眠時間(6時間未満または8時間超)**は、それぞれ認知機能低下や認知症リスクと関連があることが知られています。
- しかし、この2つが「一緒に」どのように作用するかは十分に調べられていません。
- 本研究は、その点を解明するために実施されました。
方法
- 対象:イギリスの50〜95歳の健常成人 8,958人
- 追跡期間:最大10年間(2008〜2019年)
- 評価:
- 睡眠時間(自己申告):
- 短時間睡眠(<6時間)
- 最適睡眠(6–8時間)
- 長時間睡眠(>8時間)
- 身体活動(自己申告+強度を加味したスコア):
- 高いPA(頻繁かつ強度の高い運動)
- 低いPA
- 認知機能:言語流暢性テスト・記憶課題(標準化スコア)
- 睡眠時間(自己申告):
主な結果
独立した影響
- 高い身体活動 → 年齢にかかわらず、ベースラインの認知スコアが有意に高かった
- 短時間睡眠 (<6時間) → 認知スコアが低く、10年間での低下が速かった
- 長時間睡眠 (>8時間) → ベースラインではやや低いが、低下スピードは最適睡眠に近かった
睡眠と運動の「組み合わせ」の影響
- 高い身体活動+最適睡眠 → 常に最も高い認知スコアを維持
- 高い身体活動+短時間睡眠 → 最初は良好だが、10年で急速に低下し、低PA群と同程度に
- 高い身体活動+長時間睡眠 → 男性においてはむしろ良好な認知軌跡を示す傾向
考察
- 運動は認知機能を守るが、短時間睡眠の悪影響を完全には打ち消せない
- 睡眠時間が最適な人は、運動の効果を最大限享受できる
- 長時間睡眠の意味合いは性別などによって異なる可能性があり、さらなる研究が必要
- 認知症の予防には「運動」だけでなく「十分な睡眠」も同時に整えることが大切
実生活へのメッセージ
- 毎日 6〜8時間の睡眠 を確保する
- 週150分以上の中等度運動(ウォーキング、ジョギング、サイクリングなど)を継続
- 運動と睡眠を両立することで、認知機能を長く保ち、認知症リスクを下げる可能性がある
まとめ
Bloombergらの10年追跡研究は、
- 運動と睡眠の両方が認知機能に重要
- 特に 短時間睡眠は運動で補えないリスク であることを示しました。
つまり「よく動き、よく眠る」ことが、健康な脳を長く保つ鍵となります。
引用文献
Bloomberg M, Brocklebank L, Hamer M, Steptoe A.
Joint associations of physical activity and sleep duration with cognitive ageing: longitudinal analysis of an English cohort study.
Lancet Healthy Longev. 2023;4(7):e345–e353. doi:10.1016/S2666-7568(23)00083-1