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高齢者の運動と睡眠 ― 「双方向の関係」を解明した研究
「運動すればよく眠れる」「よく眠れば活動的になれる」――これは誰もが直感的に理解している関係ですが、高齢者において本当にそうなのかは明確ではありません。
筑波大学と国際共同研究チーム(Seolら, 2022)は、**92人の日本人高齢者(65〜86歳)**を対象に、ポリソムノグラフィー(精密な睡眠検査)と加速度計を7日間連続で用い、運動と睡眠の「日ごとの双方向関係」を調べました。
研究の特徴
- 対象者:平均年齢74歳、日本の高齢者92人
- 方法
- 睡眠:家庭で使える軽量型ポリソムノグラフィーを装着
- 身体活動:加速度計で日中の活動量(座位行動・低強度・中高強度)を測定
- 主観的な睡眠評価:OSA-MA質問票を毎朝記録
- 解析方法:
- 個人内(日ごと)と個人間(全体傾向)の二段階で多層モデルを用いた
主な結果
1. 日中の活動とその夜の睡眠
- 座位が多い日
- REM睡眠が長く、REM潜時(入眠後REMが始まるまでの時間)が短い
- しかし深い睡眠(N3)とデルタ波(深睡眠の指標)は減少
- 低強度の運動(散歩や軽いストレッチなど)が多い日
- REM睡眠は減少
- 代わりに深い睡眠(N3)とデルタ波が増加
- REM潜時が長くなる
- 中高強度の運動(ジョギングなど)が多い日
- REM潜時が延長(ただし深い睡眠への影響は少ない)
2. 夜の睡眠と翌日の日中活動
- 主観的に長く眠れたと感じた夜 → 翌日の中高強度の運動量が増える傾向
- デルタ波(深い睡眠)が多かった夜 → 翌日は座位行動が少なめ
考察
- 高齢者では、軽い運動(低強度PA)が深い睡眠を増やすカギ
- 座りっぱなしは、一見REM睡眠を増やすが、深い睡眠を減らし、回復感を妨げる可能性
- 睡眠と運動は双方向に影響し合い、「よく眠ればよく動き、よく動けばよく眠れる」関係がある
- 運動強度によって睡眠への影響が異なり、無理のない低強度運動が特に有効
実生活へのメッセージ
- 高齢者にとって重要なのは、激しい運動ではなく日常的な軽い運動
- 例:散歩、軽い体操、家事
- 座りすぎを減らすことが、深い睡眠の確保に役立つ
- よく眠れた日は活動的に、活動した日はよく眠れる ― この好循環を意識する
まとめ
Seolらの研究は、高齢者の睡眠と身体活動が双方向に影響し合うことを、精密な検査で初めて明らかにしました。特に、低強度の運動が深い睡眠を増やすという知見は、無理のない運動習慣を取り入れる重要性を示しています。
引用文献
Seol J, Lee J, Park I, Tokuyama K, Fukusumi S, Kokubo T, Yanagisawa M, Okura T.
Bidirectional associations between physical activity and sleep in older adults: a multilevel analysis using polysomnography.
Scientific Reports. 2022;12:15399. doi:10.1038/s41598-022-19841-x