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昼寝と心血管リスク:PURE研究から見えた真実
昼食後の眠気や午後のだるさに対して、多くの人が「昼寝」でリフレッシュしています。しかし最近の大規模国際研究では、昼寝が必ずしも健康に良いとは限らないことが示されています。今回は、116,632人を対象にした**PURE研究(Prospective Urban Rural Epidemiology Study)**から、昼寝と死亡率・心血管イベントの関係をご紹介します。
研究概要
- 対象者:21か国、116,632人(35〜70歳)
- 追跡期間:中央値7.8年
- 評価項目:総死亡+主要心血管イベント(心筋梗塞、脳卒中、心不全)
- 測定方法:自己申告による夜間睡眠時間+昼寝時間の合計で「1日の睡眠時間」を推定
主な結果
1. 総睡眠時間とリスク
- 6〜8時間睡眠:最も死亡率・心血管イベントが低い
- >8時間睡眠:リスク上昇(例:9〜10時間 → HR 1.17, >10時間 → HR 1.41)
- ≤6時間睡眠:ややリスク上昇傾向(HR 1.09)があるが統計的には非有意
→ 結果はJ字型カーブを描き、短すぎても長すぎてもリスクが増えることが判明。
2. 昼寝とリスク
- 夜間6時間以上眠っている人が昼寝をすると、死亡+心血管イベントリスクが上昇
- 夜間6時間未満しか眠れない人では、昼寝を取ってもリスク上昇は認められず、むしろ不足分を補う可能性
3. 地域・年齢による違い
- 昼寝習慣が多い地域(中東、中国、東南アジア、南米)でも、少ない地域(欧米、南アジア、アフリカ)でも傾向は同じ
- 特に50歳以上で長時間睡眠+昼寝によるリスク増加が顕著
考察:なぜ昼寝がリスクにつながるのか?
- 自律神経の急激な変動 長時間の昼寝後に起きると、副交感神経優位から交感神経サージが起こり、血圧や心拍が急上昇。これが心血管イベントの引き金になる可能性。
- REM睡眠による不安定性 昼寝が長くなるとREM睡眠が混入し、自律神経が激しく変動する「自律神経の嵐」が起こることが知られています。
- 基礎疾患の影響 長い昼寝は、心不全や糖尿病、抑うつなどの健康状態悪化のサインである可能性。研究でも、昼寝が多い人ほど高血圧や糖尿病の既往が多い傾向が見られました。
実生活へのアドバイス
- 6〜8時間の夜間睡眠をまず確保する
- 高齢で長い昼寝が習慣化している場合は、睡眠時無呼吸症候群や心不全の有無を医師に相談
まとめ
PURE研究によると、
- 最適な睡眠時間は6〜8時間
- 夜間十分眠っているのに昼寝を長く取ることは、死亡率・心血管イベントリスクを高める
- 一方で、夜間睡眠が不足している場合の昼寝はリスクを補う可能性がある
- 昼寝時間についての考察はされていない
昼寝は「必ずしも悪ではない」が、その背景にある夜間睡眠や健康状態を考慮して取り入れることが重要です。
引用文献
Wang C, Bangdiwala SI, Rangarajan S, et al. Association of estimated sleep duration and naps with mortality and cardiovascular events: a study of 116,632 people from 21 countries. Eur Heart J. 2019;40(20):1620–1629. doi:10.1093/eurheartj/ehy695