マラソン後の身体はどう消耗しているのか? ― 科学的エビデンスからみるリカバリーの重要性 - パフォーマンス向上の医学メディア

マラソン後の身体はどう消耗しているのか? ― 科学的エビデンスからみるリカバリーの重要性


マラソン後の筋グリコーゲンはどうなるのか?

フルマラソンを走り切ると、筋肉に貯蔵されたグリコーゲンは大幅に枯渇します。

Aspら(1999)は、競技マラソン参加者の外側広筋を筋生検で調べ、平均で約56%のグリコーゲンが消費されていることを報告しました。さらに、素早く使われる「マクログリコーゲン」が大きく減少し、数日経過しても完全には回復しないことが示されています【Asp 1999】。

→ つまり、レース直後だけでなく数日間にわたって炭水化物中心の食事を継続する必要があるのです。


どれくらいのエネルギーを使うのか?

Loftinら(2007)は、トレーニングを積んだ市民ランナーを対象にマラソンでの消費エネルギーを推定しました。その結果、男性で約2,792 kcal、女性で約2,436 kcalが消費されることが報告されています【Loftin 2007】。

→ これは成人の1日の基礎代謝量に相当する大きなエネルギーであり、マラソン後は十分なカロリー摂取が不可欠だとわかります。


水分と電解質の消耗は?

マラソン中の発汗による体重変化は大きく、Tanら(2016)の研究では、多くのランナーで体重が減少する一方、3〜8%のランナーは逆に体重が増加していました。これは「過剰な水分摂取」による低ナトリウム血症(EAH)のリスクを示しています【Tan 2016】。

→ マラソン後の水分補給は「不足」だけでなく「過剰」にも注意し、体重変化を目安に適正量を補給することが重要です。


まとめ:マラソンリカバリーの科学的視点

  • 筋グリコーゲン:マラソンで約半分が消費され、回復には数日を要する(Asp 1999)
  • エネルギー:1回のマラソンで約2,500〜2,800 kcalを消費(Loftin 2007)
  • 水分・電解質:体重減少だけでなく、過剰補給による低Naリスクにも注意(Tan 2016)

→ したがってマラソン後は、「糖質を中心とした十分な食事」「タンパク質による筋修復」「適切な水分・電解質補給」を数日間にわたって続けることが回復の鍵です。


実践例:マラソン後のエネルギー補充プラン

フルマラソン後に失った約2,500 kcalを補うには、炭水化物を中心に、タンパク質・水分・電解質を組み合わせることが重要です。以下は目安の一例です。

ゴール直後(0〜30分以内)

  • スポーツドリンク 500ml(糖質+ナトリウム補給)
  • バナナ1本(約100 kcal、糖質25g)
  • チョコレートミルク200ml(糖質+タンパク質10g前後)

1〜2時間後

  • おにぎり2個(約350 kcal、糖質75g)
  • 焼き鮭またはツナ(タンパク質20g前後)
  • 味噌汁1杯(ナトリウム補給+水分200ml)

夕食

  • パスタ1人前(約600 kcal、糖質120g)
  • 鶏胸肉150g(タンパク質35g)
  • 野菜スープ(電解質+水分)

就寝前

  • 牛乳200mlまたはカゼインプロテイン(タンパク質20g、夜間回復)

引用文献

  • Asp S, Daugaard JR, Rohde T, et al. Muscle glycogen accumulation after a marathon: roles of fiber type and pro- and macroglycogen. J Appl Physiol (1985). 1999;86(2):474-478.
  • Loftin M, et al. Energy expenditure and influence of physiologic factors during marathon running. J Strength Cond Res. 2007;21(4):1188-1191.
  • Tan DC, et al. Body Mass Changes Across a Variety of Running Race Distances in the Tropics. Sports Med Open. 2016;2:33.

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