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電子書籍が睡眠に与える影響 ― 夜のブルーライトのリスク
スマートフォンやタブレット、電子書籍リーダーなど、光を発する端末は私たちの生活に欠かせない存在になりました。しかし夜にこれらを使うと、睡眠にどのような影響があるのでしょうか?
ハーバード大学の研究チーム(Changら, 2015, PNAS)は、夜に電子書籍を読むことが睡眠や体内時計に悪影響を及ぼすことを実証しました。
研究の目的
- 睡眠不足や睡眠の質の低下は健康に悪影響を及ぼす
- 夜の光(特にブルーライト)がメラトニンを抑制することは知られている
- しかし、電子書籍の使用が 体内時計や翌朝の眠気にどう影響するかは不明だった
- 本研究は、電子書籍 vs 紙の本を比較することでその影響を明らかにしました
方法
- 対象:健康な若年成人12人(平均年齢25歳前後、男女半々)
- デザイン:14日間の入院型クロスオーバー試験
- 条件
- 電子書籍(LE-eBook)を暗い部屋で4時間読書(5晩連続)
- 紙の本を同じ条件で4時間読書(5晩連続)
- 全員が両方の条件を体験
- 測定
- 血中メラトニン濃度(毎時採血)
- PSGによる睡眠脳波
- Karolinska Sleepiness Scale(KSS)による眠気の自己評価
- 翌朝の脳波(EEG)での眠気指標
主な結果
1. メラトニン分泌が強く抑制
- 電子書籍条件:55%抑制
- 紙の本条件:変化なし(-19%)
- 就寝前のメラトニン分泌が大きく低下
2. 体内時計が後ろ倒しに
- メラトニン分泌開始(DLMO)が 平均1.5時間遅延
- 電子書籍:22:31
- 紙の本:21:01
3. 睡眠の質の低下
- 入眠までの時間:+10分延長(電子書籍25.6分 vs 紙の本15.7分)
- REM睡眠:約12分減少(電子書籍109分 vs 紙の本121分)
- 総睡眠時間や睡眠効率は差なし
4. 翌朝の眠気
- 就寝前:電子書籍群は 眠気が少なく覚醒度が高い
- 翌朝:逆に 眠気が強く、完全に覚醒するまでに時間がかかる
考察
- *ブルーライト(短波長光)**がメラトニンを強く抑制
- 入眠困難・体内時計の遅延 → 翌朝の眠気悪化
- REM睡眠減少により翌日の認知機能や感情調整に悪影響の可能性
- 慢性的に続けば、睡眠不足や生活リズムの乱れにつながるリスク
実生活への示唆
- 寝る前の電子書籍やスマホ使用は控える
- どうしても使う場合は
- ブルーライトカット機能を活用
- 画面の明るさを最小限に
- 使用時間を短く(30分以内推奨)
- 寝る前の読書は 紙の本や暖色照明下がベスト
まとめ
Changらの研究は、夜の電子書籍利用が睡眠ホルモン・体内時計・翌朝の眠気に悪影響を及ぼすことを明確に示しました。健康な睡眠を守るためには、就寝前のデジタルデバイス使用を見直すことが重要です。
引用文献
Chang AM, Aeschbach D, Duffy JF, Czeisler CA.
Evening use of light-emitting eReaders negatively affects sleep, circadian timing, and next-morning alertness.
Proc Natl Acad Sci USA. 2015;112(4):1232–1237. doi:10.1073/pnas.1418490112