自転車タイムトライアルを短縮する新常識|呼吸筋トレーニングの科学的効果とは? - パフォーマンス向上の医学メディア

自転車タイムトライアルを短縮する新常識|呼吸筋トレーニングの科学的効果とは?


20km・40kmのタイムを縮める隠れたカギは呼吸筋

「20kmや40kmのタイムトライアルであと1分縮めたい」

「高強度区間で脚は残っているのに、呼吸が苦しくて踏み切れない」

そんな悩みを抱えるロードバイク愛好者や競技サイクリストは少なくありません。実はその“壁”の一因が 呼吸筋の疲労 にあります。

呼吸筋が限界に達すると、酸素を優先的に呼吸筋に回す「呼吸筋メタボリフレックス」が起こり、脚への血流が減少。結果的にスピード維持が難しくなります。

この呼吸筋を鍛えることで、実際に 20km・40kmのTTタイムを数%短縮できる ことが科学的に示されています。今回は、エリートに近い訓練サイクリストを対象にした二重盲検試験を紹介します。


研究の概要|訓練サイクリストを対象としたRCT

  • 研究チームと発表年 University of Birmingham, 2002年
  • 対象者 訓練歴のある男性サイクリスト16名(VO₂max 約64 ml/kg/min)
  • 方法
    • 無作為に「呼吸筋トレーニング群」と「シャム対照群」に分ける
    • しきい値デバイスを用いて、1日2回、30呼吸を6週間継続
    • 前後で20km・40kmの模擬TTを実施
    • ダブルブラインド(被験者も研究者も割付を知らない)
  • 期間 6週間の二重盲検ランダム化比較試験

主な結果|20km・40kmで顕著なタイム短縮

  • 20kmタイムトライアル:平均 66秒短縮(-3.8%)
  • 40kmタイムトライアル:平均 115秒短縮(-4.6%)
  • 呼吸筋トレーニング群では主観的な呼吸困難感・疲労感が軽減
  • 肺機能(スパイロメトリー値)そのものには大きな変化はなし

考察|なぜ呼吸筋を鍛えると速くなるのか?

  1. 呼吸筋の持久力強化 → 呼吸筋が疲れにくくなり、息苦しさが軽減される
  2. 呼吸筋メタボリフレックスの抑制 → 脚の筋肉への酸素供給が保たれ、終盤までパワーを維持できる
  3. 主観的きつさの低下 → 同じ負荷でも「楽に感じる」ため、追い込みやすくなる

実生活へのヒント|ロードバイク練習に取り入れる方法

  • トレーニング方法
    • しきい値デバイスを用いて30呼吸×1日2回
    • 強度は「ややきつい」から開始し、週ごとに負荷を増やす
  • 期間の目安 6〜8週間で効果を実感しやすい
  • 取り入れ方のコツ
    • ローラー台練習や朝のウォームアップに組み込む
    • 大会前期はしっかり実施、大会期は維持目的で週3〜4回

まとめ

呼吸筋トレーニングは、ロードバイク選手やタイムトライアルに挑戦する人にとって 3〜5%のタイム短縮を期待できる科学的に裏付けのある方法です。心肺機能そのものを変えるのではなく、呼吸の「効率」を改善する点がユニークなポイントです。


引用文献

Romer LM, McConnell AK, Jones DA. Effects of inspiratory muscle training on time-trial performance in trained cyclists. J Sports Sci. 2002;20(7):547-562.

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