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「口に含んで吐き出すだけ」でも持久パフォーマンスが向上?──糖質マウスリンスの秘密
飲み込まなくても効果あり?糖質マウスリンスが持久力を高める理由
「たった数秒、口に含んで吐くだけで、持久系競技のパフォーマンスが上がるとしたら信じますか?」
ランナーやサイクリストの間で注目されている戦略、それが “糖質マウスリンス(Carbohydrate Mouth Rinse)”。飲み込むのではなく、口に含んで吐き出すだけの手軽な方法にもかかわらず、実際の研究で持久力の向上が報告されています。本記事では、特に信頼のおける系統的レビューと臨床試験に基づいて、その効果と裏付けを確認します。
研究の概要
1. 系統的レビューとメタアナリシス(Hartley et al., 2022)
この研究は、糖質マウスリンスが持久系パフォーマンスに効果があるかどうかを、過去の臨床試験をまとめて解析したものです。
- 対象:サイクリストやランナーを中心とする複数の臨床試験(RCT)
- 結果:糖質マウスリンスを行った群は、プラセボ(味だけの溶液)と比べて わずかにパフォーマンスが向上 していました。
- 効果の大きさは「小〜中程度」ですが、多くの研究で一貫して改善傾向が確認されました。
つまり、このレビューは「劇的な効果はないが、持久運動のパフォーマンスを安定して少し底上げする可能性がある」と結論づけています。
2. 実際の持久パフォーマンスへの応用(Baltazar-Martins & Del Coso, 2019)
- 研究内容:
- 対象:トレーニングを積んだサイクリスト(16名)
- 条件:25.3kmの時間試験(タイムトライアル)中に、6.4%糖質溶液の口すすぎ vs 類似味のプラセボ
- 結果:
- 完走タイムが有意に短縮
- 平均出力および登坂セクションでのパワーが向上
- RPE(主観的運動強度評価)はやや上昇(=より高い強度を維持できた証拠)
考察
- メタ分析からの示唆:マウスリンスには持久系運動において小ながらパフォーマンス向上をうながす効果があると示唆されます(エフェクトサイズは小さいものの、多くの研究がそれを支持)
- 現場での具体的効果:実際のサイクリングで評価した研究では、タイム短縮と出力維持が観察され、「たった数秒でできるテクニック」として実用性が高そうです
- メカニズム:糖質溶液が口腔内の受容体を刺激し、報酬系・運動制御系の中枢神経へ働きかけ、「疲労感の抑制」や「動機づけ向上」に作用することが示唆されています
実生活への応用ヒント
- 持久系競技前のウォームアップ時に10秒程度すすぐだけで、手軽ながら効果が期待できる
- 消化の負担が気になるときや、胃腸不調時にも有効(飲み込まないため)
- 高強度トレーニングやタイムトライアル中に、集中を切らさず維持したい場面で実践的
まとめ
糖質を口に含んで吐くだけの「糖質マウスリンス」は、持久系パフォーマンスの改善に有効であるというエビデンスが積み重ねられています。
特に、システマティックレビューで支持され、サイクリングの実試験でも結果が検証されており、「誰でも簡単に使えるスポーツ栄養戦略」として有望です。
引用文献
- Hartley C, et al. Carbohydrate oral rinsing improves exercise performance: a systematic review and meta-analysis. Sports Med. 2022.
- Baltazar‑Martins G, Del Coso J. Carbohydrate mouth rinse decreases time to complete a simulated cycling time trial. Front Nutr. 2019.