「飲まなくても効く?」マウスリンスがパフォーマンスを改善する脳の仕組み - パフォーマンス向上の医学メディア

「飲まなくても効く?」マウスリンスがパフォーマンスを改善する脳の仕組み


なぜ飲み込まなくても効くのか?

「糖質を口に含んで吐き出すだけでパフォーマンスが上がる」──にわかには信じがたい話ですが、実際に科学的な裏付けがあります。

2009年に発表された研究では、糖質を飲み込まなくても、口に含むだけで脳が反応し、運動パフォーマンスを改善することが示されました。本記事では、その仕組みを解説します。


研究の概要

  • 研究チームと発表年 Chambers ES、Bridge MW、Jones DAらによる研究。2009年、Journal of Physiology に掲載。
  • 対象者 健康な成人男性。
  • 方法
    • 被験者は自転車エルゴメータを用いて持久運動テストを実施。
    • 条件は「糖質を含む溶液で口をすすぐ」群と「甘味だけで糖質を含まないプラセボ群」。
    • 両条件を比較して運動パフォーマンスを評価。
    • 同時にfMRI(脳機能MRI)を用いて、マウスリンス時の脳活動を解析。

主な結果

  • パフォーマンスの改善 糖質マウスリンスを行った群では、タイムトライアルの完了時間が短縮され、平均出力も増加。
  • 脳の活動変化 fMRI解析により、糖質を口に含むと以下の領域が活性化:
    • 前頭前野(意思決定や注意)
    • 線条体・報酬系(やる気や快感に関与)
  • 代謝的効果ではない 糖は飲み込んでいないため、血糖や筋グリコーゲンの増加はなく、効果は「脳の反応」によると結論づけられた。

考察:なぜ効果があるのか?

この研究から示唆されるメカニズムは次の通りです。

  1. 口腔内に糖質センサーが存在 舌や口の中には「糖を感知する受容体」があり、飲み込まなくても刺激される。
  2. 脳の報酬系を刺激 「糖が入ってきた」と脳が誤認 → 報酬系が活性化し、「もう少し頑張れる」という感覚が生まれる。
  3. 疲労感が軽減される 実際のエネルギー供給は増えていないが、脳の認知的トリックで「疲れていない」と感じ、出力を維持できる。

実生活へのヒント

  • マラソンやサイクリング後半で有効:疲労が出る局面でマウスリンスを行うと、集中力と出力が戻りやすい。
  • 胃腸が弱い人に有用:飲み込まないため、消化器への負担ゼロ。
  • 簡単に試せる:市販のスポーツドリンクやマルトデキストリン溶液を10秒ほど口に含んで吐き出すだけ。

まとめ

糖質マウスリンスがパフォーマンスを改善するのは、**「エネルギーを補給するから」ではなく「脳をだますから」**です。

口に含んだ糖質が脳の報酬系を刺激し、疲労感を抑えてやる気を引き出す。これが、飲み込まなくても効果がある理由です。


引用文献

  • Chambers ES, Bridge MW, Jones DA. Carbohydrate sensing in the human mouth: effects on exercise performance and brain activity. J Physiol. 2009;587(Pt 8):1779-1794.

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