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カフェインは本当にランニングを速くする?最新研究が示す意外な効果
日常のコーヒーが走力に効く?
「コーヒーを飲んでから走ると、なんだか調子がいい」──そんな経験はありませんか?カフェインは世界で最も広く利用される刺激物であり、スポーツパフォーマンス向上の効果が期待されています。特にマラソンやランニングなどの持久系競技において、科学的にどれほどの効果があるのかが注目されています。本記事では、2023年に発表された最新のシステマティックレビューとメタ解析を紹介し、カフェイン摂取がランニングの持久力に与える影響を解説します。
研究の概要
- 研究チームと発表年 北京体育大学(中国)とスペイン・レイフアンカルロス大学の研究者らによる共同研究。2023年『Nutrients』誌に掲載。
- 対象者 21件の無作為化クロスオーバー試験、計254名(男性220名、女性19名、性別不明15名)。アマチュア167名、トレーニングを積んだランナー87名。
- 方法 すべての研究で、カフェイン摂取(3〜9 mg/kg)とプラセボを比較。カフェインはカプセル、コーヒー、ガム、パウダーなど多様な形態で投与。走行試験は「疲労困憊まで走るテスト(time to exhaustion)」と「設定距離のタイムトライアル」の両方を評価。
- 期間 対象となった研究は1991〜2022年に実施。すべて単回投与の急性効果を検証した試験。
主な結果
1. 疲労困憊までの時間(Time to Exhaustion)
- カフェイン摂取で中等度の効果(Hedges’s g = 0.392, p < 0.001)
- 平均して16.97% ± 14.65%長く走れるようになった。
- レクリエーショナルランナー(g = 0.469)でも、トレーニングを積んだランナー(g = 0.344)でも効果あり。
2. タイムトライアル(Time Trials)
- 設定距離を走るタイムは小さいが有意に短縮(g = –0.101, p = 0.026)。
- 平均改善率は0.71% ± 0.83%。
- ただし、訓練レベル(アマチュア vs. トレーニング済)や距離(中距離 vs. 長距離)による有意差は認められなかった。
考察
- 意味すること カフェインはランニングにおいて、「疲労困憊までの持続時間」を大きく延長し、実際のレース形式でも小さいながら有意なタイム短縮をもたらす。
- メカニズム 主に「アデノシン受容体拮抗作用」により、脳内の疲労感を軽減し、覚醒度を高めることが知られている。またドーパミン・エンドルフィン分泌増加も関与し、痛みや努力感を和らげる可能性がある。
- 過去研究との違い 以前のレビューは主に自転車運動の結果に基づいていたが、本研究は「ランニングに特化」しており、実際のマラソンランナーにより直接的に適用できるエビデンスといえる。
実生活へのヒント
- 摂取量の目安:体重1kgあたり3〜6 mg(例:60kgなら約180〜360 mg、コーヒー2〜3杯相当)。
- タイミング:運動開始の約60分前が推奨される。
- 注意点:
- 高用量(>9 mg/kg)は副作用(不安、不眠、動悸)リスク増大。
- 個人差(カフェイン代謝スピード、習慣的摂取量)により効果が異なる。
- 就寝前の摂取は睡眠を妨げる可能性あり。
まとめ
最新のメタ解析によれば、カフェイン摂取はランナーにおいて 疲労困憊までの時間を大幅に延長し、タイムトライアルでも小さな改善効果をもたらします。日常的なコーヒーやサプリメント摂取が、レースやトレーニングにおける「あと一歩」を支えてくれるかもしれません。
引用文献
Wang Z, Qiu B, Gao J, Del Coso J. Effects of Caffeine Intake on Endurance Running Performance and Time to Exhaustion: A Systematic Review and Meta-Analysis. Nutrients. 2023;15(1):148.