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アスリートの睡眠と不安 ― トレーニング期と試合期でどう違うのか?
スポーツ選手にとって睡眠は、最高のパフォーマンスを発揮するために欠かせない回復手段です。では、普段のトレーニング週と大会の試合週で、睡眠の質や量、不安感はどのように変わるのでしょうか?
オーストラリアの研究チーム(Romynら, 2016)は、州代表レベルの女子ネットボール選手8名を対象に、トレーニング週と全国大会期間の睡眠・不安・電子機器使用を比較しました。
方法
- 対象:平均年齢19.6歳の女子アスリート8名
- 測定期間:
- トレーニング週(TRAIN)7日間
- 競技大会週(COMP)7日間
- 測定内容:
- リスト型アクチグラフで就寝時刻、起床時刻、睡眠時間、入眠潜時、睡眠効率、覚醒後の覚醒時間(WASO)、断片化指数
- 睡眠日誌(睡眠の主観的評価、Karolinska眠気尺度)
- 試合や練習に対する不安(POMSの不安スコア)
- 就寝前の電子機器使用時間
主な結果
睡眠の質
- 睡眠効率:
- トレーニング週:85.2%
- 試合週:89.0%(有意に改善, p=0.03)
- 就寝・起床時刻:試合週の方が早かった(p=0.01)
- 睡眠時間:両週で差はほぼなし(約8時間)
不安と睡眠
- 不安が高いほど、主観的な睡眠の質(SQR)が低下(r = -0.82, p < 0.05)
- ただし、不安と入眠潜時の間には有意な関連はなし
電子機器使用
- 試合週の方が使用時間が減少する傾向(TRAIN: 約26分 → COMP: 約15分)
- 睡眠効率と電子機器使用時間には負の相関傾向があったが有意差には至らず
考察
- 試合週は身体的・精神的な負荷が大きい一方、回復睡眠の需要が高まり、睡眠効率が上がったと考えられる
- 不安が強い選手ほど睡眠の主観的評価が低下 → 試合前のメンタルケアが重要
- 電子機器使用はメラトニン抑制や覚醒を促す可能性があるため、就寝前は控えるのが望ましい
- 試合週はチームでのリカバリーセッションや規則的な生活リズムが整ったこともプラスに働いた可能性
実生活への示唆
- アスリートは試合前に不安を和らげるルーティンを持つことが有効
- 就寝前のスマホ・PC使用を減らすことで睡眠効率が改善する可能性
- チームやコーチは、規則正しい生活スケジュールと回復セッションを整えることが重要
まとめ
Romynらの研究は、アスリートの睡眠はトレーニング期より試合期の方が効率的になるが、不安は睡眠の質を悪化させることを示しました。
つまり「規則的な生活」「不安対策」「電子機器の制限」が、試合期のパフォーマンス維持に大切です。
引用文献
Romyn G, Robey E, Dimmock JA, Halson SL, Peeling P.
Sleep, anxiety and electronic device use by athletes in the training and competition environments.
European Journal of Sport Science. 2016;16(3):301–308. doi:10.1080/17461391.2015.1023221