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アナボリックウィンドウの真実 ― 本当に「30分以内」が勝負なのか?
アナボリックウィンドウとは?
「アナボリックウィンドウ(anabolic window)」とは、筋トレなどの高強度運動後に存在するとされる、栄養摂取が筋肉の回復・成長に最も有効な時間帯を指します。
従来は「運動直後30分以内にタンパク質や炭水化物を摂らなければ効果が落ちる」と広く信じられてきました。このため、多くの人がトレーニング直後に慌ててプロテインを飲んでいます。
しかし、最新の科学的エビデンスは、この“窓”が思っているほど狭くないことを示しています。
研究1:アナボリックウィンドウは本当に狭いのか?(Aragon & Schoenfeld 2013)
Aragon & Schoenfeld(2013)は、過去の栄養タイミング研究を包括的にレビューし、次のような結論を導きました【Aragon 2013】:
- 「30分以内に摂らないと効果がなくなる」という主張を支持する強固なエビデンスはない
- 運動後の栄養感受性は数時間にわたり持続する
- 栄養タイミング以上に重要なのは、一日の総タンパク質摂取量とバランスの良い食事パターン
→ つまり、アナボリックウィンドウは存在するが、従来考えられていたほど「狭い窓」ではなく、もっと広い時間的余裕があるということです。
研究2:最新レビューによる整理(Schoenfeld & Aragon 2018)
さらにSchoenfeld & Aragon(2018)は、運動後の栄養タイミングに関する論争を改めて整理しました【Schoenfeld 2018】:
- 運動直後の補給が有利な場合もあるが、それはトレーニング前に空腹で挑んだケースや、次のセッションまでの間隔が短い場合に限られる
- 一般的な状況では、運動後2〜3時間以内に食事を摂れば十分
- パフォーマンスや筋肥大に影響する主因は、1日の総タンパク質量(1.6〜2.2 g/kg程度が目安)と食事の分配
→ この論文は、栄養タイミングを過大視するのではなく、**「総量と日常の食習慣こそが鍵」**という実践的なメッセージを強調しています。
実生活へのヒント
- トレーニング直後にプロテインを飲むのは確かに効果的だが、数時間以内であれば十分
- 大切なのは、1日の総タンパク質量を確保し、3〜5回に分けて摂ること
- 例えば:
- 朝食:卵+ご飯
- 昼食:鶏胸肉+野菜+炭水化物
- トレーニング後:ホエイプロテインシェイク or 普通の食事
- 夕食:魚や赤身肉
- 就寝前:牛乳やカゼイン
まとめ
- アナボリックウィンドウは存在するが、“30分以内が勝負”というのは誤解
- 運動後2〜3時間以内に栄養を摂れば十分効果的
- それ以上に重要なのは、一日の総タンパク質摂取量と分割摂取の習慣
→ 結論として、トレーニング直後のプロテインは便利で有効ですが、「30分以内に飲まなければ意味がない」という考えは、科学的には支持されていません。
引用文献
- Aragon AA, Schoenfeld BJ. Nutrient timing revisited: is there a postexercise anabolic window? J Int Soc Sports Nutr. 2013;10:5.
- Schoenfeld BJ, Aragon AA. Is There a Postworkout Anabolic Window of Opportunity for Nutrient Consumption? Clearing up Controversies. J Orthop Sports Phys Ther. 2018;48(12):911-914.