目次
Outline
中高生の運動と睡眠 ― 長期間の計測で見えた意外な関係
「よく体を動かした日はぐっすり眠れるはず」――そう考えている人は多いでしょう。
しかし、最新の研究によると、必ずしもそうとは限らないかもしれません。
スイス・ベルン大学の研究チーム(Castiglione‑Fontanellazら, 2022)は、中高生の長期的な身体活動と睡眠を、リストバンド型の活動量計で詳細に測定し、その関係を調べました。
研究の概要
- 対象:健康な10〜14歳の若者50名
- 測定方法:
- 活動量:加速度計(Jawbone)を約6か月間装着(平均119日/人)
- 睡眠:同じ機器でベッドタイム・起床時刻・総睡眠時間・睡眠効率などを記録
- 解析:
- 個人内分析:その日歩いた歩数と翌晩の睡眠の関係
- 個人間分析:普段から歩数が多い子と少ない子での睡眠の違い
主な結果
活動量の特徴
- 平均 11,600歩/日
- 男子は女子より平均1,650歩多く歩いていた
- 学校がある日 > 休日(平均1,600歩多い)
- 年齢が上がると、1年で約800歩ずつ減少
運動と睡眠の関係
- 個人内分析(同じ子の中で比較)
- 歩数が多い日は、就寝時刻・起床時刻がわずかに遅くなる (例:+1,000歩で就寝が約1分遅れる)
- ただし、総睡眠時間や睡眠効率には差なし
- 個人間分析(歩数が多い子 vs 少ない子)
- 歩数が多い子ほど、睡眠効率がやや低い(1,000歩ごとに約0.4%低下)
- 総睡眠時間や入眠潜時との関連は見られず
考察
- 「よく歩いた日はよく眠れる」という期待とは異なり、 日中の活動量が多いほど、睡眠効率がやや低下する傾向が見られました。
- その理由の一つとして、
- 激しい活動が夜の覚醒を増やす可能性
- 活動時間が夕方以降に集中すると体内時計を後ろにずらす といった要因が考えられます。
- ただし効果の大きさは小さく、健康面では運動のメリットが睡眠への軽微な影響を上回ると研究者は強調しています。
実生活へのヒント
- 中高生は、休日よりも学校がある日に体を動かす機会が多い → 休日も運動習慣を意識することが重要
- 就寝直前の強い運動は避ける → 夜更かしにつながる可能性がある
- 運動は健康の基盤。睡眠効率のわずかな低下を恐れて運動量を減らす必要はない
まとめ
この長期観察研究は、
- 中高生の身体活動は年齢とともに減少
- 歩数が多い日はやや夜更かし傾向
- 普段から歩数が多い子は睡眠効率が低め
という意外な結果を示しました。
しかし効果は小さく、運動の健康効果は圧倒的に大きいことから、
「適度な運動」と「睡眠リズムの工夫」を組み合わせることが、
若者の健康的な生活に大切だと結論づけられています。
引用文献
Castiglione‑Fontanellaz CEG, Timmers TT, Lerch S, Hamann C, Kaess M, Tarokh L.
Sleep and physical activity: results from a long‑term actigraphy study in adolescents.
BMC Public Health. 2022;22:1328. doi:10.1186/s12889‑022‑13657‑0